9月号目次
閻魔帳
安倍政権の終焉と創価・公明の与同罪/段 勲
緊急特集/安倍辞任と創価学会の責任
自公“独裁”政権が壊したもの/柿田睦夫
辛辣‼ 海外の安倍評価/広岡裕児
特集/香港問題に沈黙する池田創価学会
「香港言論弾圧」「黒い雨訴訟控訴」に頬かむりする「池田大作=創価学会・公明党」の欺瞞/古川利明
中国の香港抑圧に沈黙&安倍首相を支え続けた池田創価学会の“内在的論理”/乙骨正生
トピックス
2020年、残暑の無法者たち/鈴木エイト
- 連載
「公明党と創価学会」を考える(第11回)
前尾衆議院議長と公明党(2)/平野貞夫
ナニワの虫眼鏡(第15回)
著しい既存メディアの凋落 YouTubeはテレビに取って代わるか/吉富有治
新・現代の眼(第49回)
蛤よく気を吐いて楼台をなす(1)/菅野 完
執筆者紹介 編集後記
編集後記から
毎月10日を発行日とする小誌の原稿締め切りは、発行前月の末となります。今号の締め切りは8月29日でしたが、その前日の28日に安倍晋三首相が突然、総理大臣辞任の記者会見。そこで今号では急きょ、本来の香港問題に関する特集に加え、安倍辞任に関する特集を組みました。
詳細は特集記事や、安倍辞任に触れた連載等の各種記事をお読みいただければと思いますが、第二次安倍政権だけでも7年8カ月、歴代最長の在職日数を記録した安倍政権を支え続けた公明党そして創価学会の責任は重大です。
小誌発行直後には、後継首相が決まり、新内閣が発足するものと思われますが、9月1日の本欄執筆時点では、党員投票を含むフルスペックの自民党総裁選を望む中堅・若手や地方組織の要望を、麻生太郎副総理・二階俊博幹事長ら派閥のボス議員らがはねつけ、派閥力学に基づいた事実上の談合で、菅義偉官房長官を後継首相に担ぐ流れが加速しています。
ボス議員らによる談合で後継首相を決めるということで記憶に新しいのは、小渕恵三首相が病に倒れた際に森喜朗後継首相を決めた青木幹雄官房長官・森幹事長・村上正邦参院会長・亀井静香政調会長・野中広務幹事長代理による「密室談合」でしょう。
小誌に「創価学会と公明党を考える」を連載中の平野貞夫元参議院議員は、『平成政治20年史』に、その際、青木官房長官・野中幹事長代理が創価学会の秋谷栄之助会長に電話を入れて説明し、森後継の了承をとったと書いていますが、「密室談合」の当事者であった村上元参院幹事長も、小誌の111号インタビューの際、青木・野中両氏が別室で秋谷会長に連絡をとり、了承をとった事実を認め、日本国総理大臣となる自民党総裁の選出について、創価学会の会長に了承を取る二人の政治姿勢に驚いたと語っていました。
「密室談合」で事実上選ばれた森首相は、政治的正当性に疑問符がついたことから、すぐに衆議院を解散、選挙に勝つことで正当性を得ることに腐心しましたが、仮に形ばかりの総裁選で菅官房長官が後継首相に選ばれた場合、森首相同様、政権の正当性に疑問符がつかないよう直ちに選挙に打って出る可能性は否定できません。すでに10月25日投票などの憶測も流れています。
そして菅官房長官といえば、小誌7月号の河井問題でも詳報しているように、創価学会とは蜜月の間柄。創価学会にとってもっとも都合のよい政治家だけに、すでに創価学会には菅後継と解散総選挙についての打診がいっているのかもしれません。
緊急特集/安倍辞任と創価学会の責任
自公“独裁”政権が壊したもの
柿田睦夫
ジャーナリスト
「やってる感」で印象操作
「逃げのびた」のか、それとも「投げ出した」のか──。
安倍晋三首相の辞任表明は持病の悪化が原因だという。コロナ禍のもとで打つ手がことごとく的外れとなり、行き詰まった末の辞任となった。病気に苦しみながらも、自身の連続在職記録までは何とか耐え抜いたのだろうか。
去る者は責めずという風潮が日本にはある。だがここは冷静に見なければいけない。数々の疑惑が隠されたままであり、多くの「負の遺産」が残されたからだ。何より、長期の自公政権によって民主主義が壊され、その傷があまりにも重いからだ。
共同通信は次の見出しで特集記事を配信した(『高知新聞』8月29日付による)。
▽庶民に果実渡らず ▽経済再建積み残し ▽改憲、拉致、創生…道半ば ▽レガシー残せず ▽医療現場「辞任遅い」 ▽「法の支配」軽視一貫──。
客観的にはそういうことだろう。森友・加計問題、「桜を見る会」とその前夜祭、公文書の改ざんと公務員の自殺等々、首相自身にかかわる諸事案にはフタがされたままだ。7年8カ月の間に10人の閣僚が不祥事で辞任した。「任命責任は私にある」と、これも言いっ放しのままである。嘘と詭弁とスリカエ、言い逃れ、証拠隠し…。これが一貫した手法だった。「長期権力のおごりと緩み」とメディアは言うが、それは違う。安倍政権の本質がそこにあると思えるからだ。
安倍政権を象徴する言葉がある。「やってる感」である。本当は何もしていないのにそう見せるという印象操作。メディアの忖度報道がそれを助勢してきた。
たとえばアベノミクス。政府は「もはやデフレではない。景気回復」と自賛し、メディアもその言い分をタレ流してきた。たしかに株価は上がった。だがそれは、日銀が老後の年金基金までぶち込んで買い支えたからだ。その結果、国債発行残高は897兆円(2019年度)にまで膨れ上がった。国民一人あたり713万円。将来の国民へのツケ回しだ。
たしかに大企業は潤った。内部留保は446兆円にまで増えた。保有金融資産1億円超の富裕層は10年余りで46万世帯も増えた。裏返せば貧困層がそれだけ多くなったのだ。実質賃金は低迷したままであり、家計消費も落ち込んだまま。格差拡大こそがアベノミクスの“果実”だったのだ。
4~6月期の国民総生産(GDP)は年率換算マイナス27・8%と、戦後最大の落ち込みになった。コロナのせいだけではない。内閣府も7月になって認めたように、18年10月以降景気は後退し続けており、消費税10%が決定的な追い打ちとなって、昨年末にはすでに破綻の局面に陥っていたのだ。
外交も「やってる感」だった。夫人同伴の派手な首脳外交を演じたけれど、思い返してほしい。メディアの報道の大半は「今後も緊密に連携することで一致した」である。「今後は疎遠になりましょう」という外交などあるわけがない。
日米同盟の強化だという。だがその内実はトランプ大統領の言いなり。兵器を爆買いし、農産物の市場は明け渡した。年額約2000億円の米軍思いやり予算に加えて、日米地位協定では米側負担になっている米軍訓練移転も実は日本が負担し、累計589億円にのぼる。米軍同盟国の中でこんな国は日本だけである。
北方領土ではロシアに翻弄され、領海侵犯を重ねる中国の習近平主席の国賓招待まで模索する。北朝鮮の拉致問題は一歩も進まない。自立した「外交」の成果などまるで見当たらないのである。
レガシーは「独裁」への道筋
「やってる感」で7年余を過ごしてきたけれども、コロナに直面していよいよその「無能」が露呈してきた。PCR検査の徹底や医療体制の整備といった基本課題では後手にまわり続け、アベノマスクのようなピント外れの施策ばかりが目についている。
こんなとき、政権の無能をカバーすべき立場にあるのが官僚機構なのだが、これがまるで機能しない。官邸が持つ強力な人事権を行使することによって忖度をまん延させることはできても、霞が関に蓄積された知恵や経験を引き出すという能力がこの政権にはないからだ。
こうした政権運営の根底にあるのは安倍首相自身の政治的見識の欠如だろう。とりわけ民主主義の原理・原則に対する無理解がある。
象徴的にあらわれたのが立法権と国政監視権を持つ国会の機能封殺に動いたこと。恣意的な検察官人事のように司法権の分野にまで介入を企てたことである。憲法解釈の変更や法解釈の変更は本来、立法権に属するものであり国会審議に委ねなければならない。安倍自公政権は、集団的自衛権行使容認の閣議決定や賭けマージャン検事長の定年延長に向けた閣議決定で、その原則を侵害した。
野党が憲法の規定に基づいて要求した臨時国会を召集せず、閉会中審査への出席をも拒否する。審議すべき法案がないからという与党の説明は嘘だ。積み残しのままの法案は山ほどあるのだ。各種世論調査でも約7割の国民が国会開会を求めている。今は国会に出て批判を浴びたくないという姑息な逃げ以外の何ものでもないだろう。
つまり安倍自公政権は民主主義のルール、とりわけその根幹である三権分立の原則をも平然と踏みにじってきたのだ。それは独裁への道である。安倍首相はそれを「強力なリーダーシップ」と勘違いしてきたのだろう。
安倍自公政権のレガシーとはつまるところ、このような民主主義破壊への道筋を作ったことだろう。そして、それでもなお選挙に勝つことができるという経験を残したことだといえる。
数の力で押し切った安保法制は、政権の判断だけで戦争することができるという道筋を作った。同様に成立した特定秘密保護法や共謀罪法も政権の恣意的な運用で戦前の軍機保護法や治安維持法と同様に機能する余地を残している。
そんな危険を監視し防波堤となるべき記者クラブメディアにも忖度が入り込んでいる。事前に提出した数項目の質問に答えてもらう記者会見を甘受するような状況になっている。知る権利擁護のためにそんな会見を拒否するというほどの気概はまるで伝わってこない。
こんな風潮が社会にまで広がり、国民の自主規制につながらないという保障はどこにもない。すでにコロナ禍のもとで“自粛警察”が始まっているのだ。
東京工業大学の中島岳志教授(近代思想史)はこう指摘している(共同=同前8月26日付)。
「安倍内閣がこの国に刻んだ傷は大きい。この傷を丁寧に治癒しなければ、大きな禍根を残すことになるだろう」
公明党は無法の「知恵袋」
紙数を費やしてしまったが、この安倍政権が最初から「自公連立」だということを見落としてはいけない。公明党の山口那津男代表は「7年8カ月続いたこと、それ自体が大きな功績」だという(『朝日新聞』8月29日付)がそうではない。かくも長くこの政権を担った意味こそを問い直すべきだろう。
公明党の政権追従は「下駄の雪」と評されたが実態はそうではない。集団的自衛権の閣議決定の際の「新3要件」や共謀罪法の中間報告採決という奇手も公明党の発案だった。「下駄の雪」ではなく、無法を通す「知恵袋」の役割を果たしてきたのだ。
さらに重要なことは、近年は創価学会が直接乗り出して官邸と交渉し、政治・政局に関与し動かしていることである。消費税増税時の軽減税率の法案作成やコロナ対策の10万円給付、参院選5選挙区での自民党の公明党支援、河井夫妻の大型買収選挙につながった兵庫・広島選挙区のバーター取り引き等々、いずれも公明党の頭越しに創価学会と官邸の直接協議で決めたものだ。しかもそれは理念ではなく利害によって行われている。
憲法は20条3項で国の宗教的活動を禁じ、20条1項で「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」と、宗教団体にも政教分離のしばりをかけている。つまりこれは憲法上の問題でもあるのだ。
柿田睦夫(かきた・むつお)フリージャーナリスト。1944年生まれ。業界紙記者などを経て1979年から「しんぶん赤旗」社会部記者。退職後「現代こころ模様」シリーズなどで「宗教と社会」の関わりを取材。葬儀や戦後遺族行政に関わるレポートも多い。『霊・超能力と自己啓発─手さぐりする青年たち』(新日本新書、共著)『統一協会─集団結婚の裏側』(かもがわ出版)『現代葬儀考─お葬式とお墓はだれのため?』(新日本出版社)『宗教のないお葬式』(文理閣、共著)『これからの「お墓」選び』(新日本出版社)『自己啓発セミナー─「こころの商品化」の最前線』(新日本新書)『現代こころ模様─エホバの証人、ヤマギシ会に見る』(新日本新書)、新刊に『創価学会の“変貌”』(新日本出版社)など著書多数。