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7月号目次

7月号目次

 

閻魔帳

参院選・各党の第一声と若きジャーナリストの病死/段 勲

 

特集/原田ジュニアの教学部長就任と狂乱選挙にみる創価学会の混乱と混迷

 

「創価神学」の敷衍&新たな「世襲の素因」兆す“怪”人事/乙骨正生

深まる構造的危機の対処法は“解党”/溝口 敦

「ジュニアの教学部長抜擢」は来秋で会長任期が切れる「原田稔の院政」への布石か/古川利明

 

トピックス

参院選で混沌とするカルト問題と政治/藤倉善郎

トピックス

安倍政権を支えた神社本庁が分裂の危機/橋本征雄

 

  • 連載

「公明党と創価学会」を考える(第33回)

「平成の政治改革」と公明党・創価学会(2)/平野貞夫

ナニワの虫眼鏡(第37回)

与野党激戦の参院選が終了 大阪のカジノは争点になったのか/吉富有治

ヨーロッパ・カルト事情(290)

RN躍進が招来する新たな議論のステージ/広岡裕児

執筆者紹介  バックナンバー一覧 編集後記

 

 

編集後記から

小誌の発行日は毎月10日のため、7月号の発行は第26回参議院選挙の投票日にあたってしまいました。果たして国民の審判はどうなったか。残念ながら結果の分析と詳報は月遅れながら次号の特集となります。

今回の参院選についてのマスメディアの事前の予測記事や、世論調査に基づく予想記事によれば、自公は堅調で過半数を上回り、維新も倍増の見通し。逆に野党の立憲や共産は厳しい結果となっていました。あたかもどうせ自公が勝つ、投票に行っても仕方ないと諦めさせることを狙っての誘導かと思われるような、メディアの予測記事には腹が立つばかりです。

それにしても今年の東京は、1951年の統計開始以降最速の6月27日、わずか22日間で梅雨が明けてしまい、選挙期間中は連日、35℃を超える猛暑が続きました。

そんな異常な猛暑の下でも、公明党の組織母体の創価学会は会員を選挙闘争に駆り立てていました。創価学会・公明党は7選挙区の全員当選と、比例区800万票の獲得を目標としており、候補者を擁立した選挙区の組織を中心に、「立正安国の大闘争」「拡大の新記録」と口角泡を飛ばして叫び、会員の尻を叩き続けたのです。

会員の減少による組織力の衰退が続く創価学会は、なりふり構わぬ政教一体の選挙闘争を繰り広げるしかないのでしょうが、そうした傾向に拍車がかかりそうな人事が6月11日付『聖教新聞』に載っていました。原田稔会長の長男が教学部長兼SGI教学部長に就任したというのです。

この原田ジュニアの教学部長就任は、来年で任期切れを迎える現在80歳の原田会長の動静とも絡んで注目を集めています。というのも今年の参院選以後、突然の解散以外、向こう3年間国政選挙の予定はなく、政界は凪を迎えるからです。この時期に会長交代を図る可能性は否定できません。当然、教学部長に昇格した原田ジュニアがどのように処遇されるのか。そのポスト次第では、世襲を否定していたため池田大作名誉会長の子息は会長になれなかったにもかかわらず、原田会長の長男は会長に就く可能性が出てきます。詳しくは特集記事をご参照ください。

まだまだ暑い日が続きます。コロナとともに熱中症にも十分ご注意ください。

小誌は宗教と社会・宗教と政治の事実と真実を追究し続けます。今後とも御支援・御購読のほどよろしくお願いいたします。

特集/原田ジュニアの教学部長就任と狂乱選挙にみる創価学会の混乱と混迷

 

「創価神学」の敷衍&新たな「世襲の素因」兆す“怪”人事

乙骨正生

ジャーナリスト

 

「行き過ぎた政教分離」の是正を画策

創価学会の機関紙『聖教新聞』(6月11日付)に、創価学会の動静を占う上で興味深い人事が載っていた。原田稔会長の子息(長男)である原田星一郎氏が、創価学会ならびに創価学会インタナショナル(SGI)の教学部長に就いたという記事である。

宗派・教団によって名称は異なるものの、宗教団体の根幹である教義を担当する組織は重要視される。そのトップに原田会長の子息(以下・原田ジュニア)が就任したのである。

周知のように創価学会は、1991年11月に信徒団体として所属していた日蓮正宗から、教義違背等を理由に破門された。これを創価学会は、あたかもカソリックから分離独立してプロテスタントを確立したマルティン・ルターによる宗教改革に擬して「魂の独立=平成の宗教改革」と称して正当化を図った。

もっとも信徒団体として日蓮正宗の本尊・教義に依存してきた創価学会は、水面下では日蓮正宗の教義を否定し独自の教義解釈を表明する準備を進めてはいたものの、日蓮正宗の本尊・教義を礼賛してきた歴代会長の言説との論理矛盾や自家撞着、会員に与える動揺などを考慮して、小出しかつ小刻みな本尊・教義の改変は実施したものの、抜本的な改変には踏み切れず、独立した教団とは言うもののドラスティックな展望を打ち出すことはできなかった。

しかし2010年に池田名誉会長が病に倒れ、事実上の再起不能となったことから、原田会長を中心とする集団指導体制に移行(原田会長インタビュー・『朝日新聞』16・9・22付)した創価学会は、これ以後、本尊・教義の全面的な改変に着手。14年には「創価学会会則」の教義条項を変え、日蓮正宗の根本本尊である「戒壇の大御本尊(弘安2年の御本尊)」の不拝と、日蓮正宗(大石寺)教学の中核である「日寛教学」の否定を表明。さらに17年には「会憲」を制定し、牧口(常三郎)・戸田(城聖)・池田(大作)の「三代会長」を「広宣流布の永遠の師匠」に位置づけるとともに、自らの「本地と使命」を「日蓮大聖人の仏法を唯一世界に広宣流布しゆく仏意仏勅の教団」であるとして、その名称を「日蓮世界宗創価学会」と規定。また教団そのものを仏と位置づける「創価学会仏」なる概念を示して、日蓮正宗とは異質な日蓮系の新興教団として世界宗教を目指すとの旗幟を鮮明化した。

そうした過程で大きな役割を果たしたと見られるのが、元外務省主任分析官で作家というよりも、いまや創価学会最大の理解者でアドバイザーというスタンスの佐藤優氏である。

創価学会が日蓮正宗からの破門を、ルターの宗教改革に擬していることは先に触れたが、池田氏が倒れた10年頃から、創価学会はプロテスタントの神学者でもある佐藤氏を重用。佐藤氏は、『潮』や『第三文明』などの創価学会系雑誌で連載を開始し、創価学会の世界宗教化の理論的根拠を提示し、①池田氏は現代・現世の「仏・菩薩」「偉大な宗教改革者」、②創価学会はキリスト教・イスラム教とならぶ「世界3大宗教となる」などと説示。すると、創価学会はにわかに「世界宗教を目指す独立教団」と声高に主張するようになり、本尊・教義の抜本的改変に踏み切ったのだった。

キリスト教と創価学会のアナロジー(対比)を通じて佐藤氏が提示する世界宗教化の論拠とは、①宗門との決別=日蓮正宗との決別、②世界伝道=創価学会インタナショナルによる世界布教、③与党化=公明党の自公連立政権参画であり、いずれも創価学会の立場を肯定するものとなっている。

その結果、佐藤氏は小誌の299号(2020年12月号)の特集記事「“世界宗教”の理論的根拠を教示する“諸天善神”」で詳述したように、いまでは創価学会において「法華経の行者を守護する善神」扱い。原田会長も20年1月の全国総県長会議において佐藤氏を、「先生が世界に広げてきた人間主義の哲学を正視眼で評価しています」と最大限の評価を与えている。そのことは佐藤氏も自覚しているものと見え、19年に創価信仰学の構築を目的に設立された創学研究会の勉強会で行った「キリスト教神学から見た『創価信仰学』」という論評の中で、「(自分は)キリスト教の歴史を熟知しているからこそ、今後創価学会が世界宗教化していくにあたって、キリスト教の過ちを繰り返し、同じ轍を踏むことのないよう多少のアドバイスができるのです」『創学研究Ⅰ―信仰学とは何か』(第三文明社)と語っている。

その佐藤氏は、創価学会が教義条項の改変に踏み切った14年発行の『創価学会と平和主義』(朝日新聞出版)以来、「行き過ぎた政教分離の是正」にとみに力を入れている。

その論理は、従来から創価学会が主張していた政教分離解釈を踏襲し、憲法に規定された政教分離は、「政教分離というよりも国家が特定の宗教教団を忌避したり優遇したりすることがないように定めた国教分離なのだ。宗教団体が政治に関与するという意味での政教は分離されていない」(「池田大作研究」第16回)とした上で、創価学会は69年の言論出版妨害事件で、マスコミや一部政党による熾烈な攻撃を受けたため、「創価学会も公明党も政教分離を過剰に意識するように」(同)なり、70年5月3日の第33回創価学会本部総会で行った池田会長(当時)の「政教分離宣言」に象徴される「行き過ぎた政教分離」に陥っているとし、その是正が必要というものである。

具体的には公明党は宗教的信念を堂々と表明すべきであり、創価学会は宗教的信念に基づいて公明党を堂々と支援すべきというものである。

こうした是正は、創価学会が教義条項を改変した14年の公明党結党50年の節目に刊行された『大衆とともに―公明党50年の歩み』に、結党時の池田会長の写真を掲載するとともに、その序文において山口那津男公明党代表が、公明党の原点は池田会長にあることを明記して以来、進みつつあると歓迎している。

前出の『創学研究Ⅰ』掲載の「書評 佐藤優著 『池田大作研究 世界宗教への道を追う』」の中で、創価大学文学部教授で創学研究所研究員の山岡政紀氏は、「佐藤氏を指して『創価学会を擁護する御用学者』であるかのように批判する人物がいます。しかし本書における佐藤氏の主張は擁護どころか、創価学会の公式見解よりももっと先を行っており、『創価学会さん、もっと自信をもってこう主張してはどうですか』と学会にハッパをかけるような分析・考察となっています」と書いているが、昨今の創価学会は、世界宗教化の論拠や条件・プロセスを提示するとともに、「行き過ぎた政教分離の是正」を強調する佐藤氏の試論や主張を後追いしているかの感さえある。

 

「選挙功徳論」を公然と主張

そうした事例の一つとして指摘しておきたいのが、月刊誌『第三文明』の連載「希望の源泉 池田思想を読み解く」の、「選挙支援と功徳」と題する昨年8月号の次のような主張である。選挙を「立正安国の戦い」と称し、宗教活動の一環として選挙闘争(公明党支援活動)を行っている創価学会の現実を踏まえる時、この主張はきわめて興味深いので少々長いが引用したい。

〈佐藤 それから、功徳について、私がもう一つ感じていることがあります。それは、“選挙における支援活動には功徳がある”と、もっとはっきり言ってもいいのではないかということです。今年は東京都議選から衆議院議員総選挙へと続く“選挙イヤー”でもありますから、なおさらそう思います。

――佐藤さんがよく言われる「行き過ぎた政教分離」がそこにあるのかもしれませんね〉

ここで佐藤氏は、前出のように言論出版妨害という不当な攻撃により、創価学会は「行き過ぎた政教分離」に陥っていたが、『公明党50年の歩み』刊行以来、是正されつつあるとした上で、こう主張する。

〈しかし、「支援活動に功徳がある」とは、まだなかなか大っぴらには言いにくいようです。

言うまでもなく、政治に関わることは「現世」を変革することです。先ほど述べたとおり、宗教が現世利益を追求すること自体は、何ら否定すべきことではありません。むしろ、現実を変える力となってこそ真の宗教と言えます。

そして、創価学会は個々人の現世利益だけを追求しているわけではありません。永遠の生命を信じ、世界平和や世界の人々の幸福を強く希求してもいるのです。公明党に対する支援活動もその一環で、政治を通じて民衆の幸福を追求し、同時に自らの幸福も願っての活動なのです。

「功徳」と一口に言っても、そこには精神的利益と物質的利益、公的功徳と私的功徳の両面があると思います。だからこそ、「支援活動には功徳がある」と主張することは、何ら恥ずかしいことでも後ろめたいことでもない。堂々と言ってよいことです。もちろん、日本国憲法の政教分離原則にも抵触しません〉

会内で密かに語られはしたものの公然とは語られなかった「選挙功徳論」。佐藤氏は「選挙に功徳がある」と堂々と語るべきだと力説するばかりか、選挙支援活動は折伏と同等の「功徳を生む条件」を内包しているとこう主張する。

〈(選挙支援活動は)政界の悪しき権力と闘い、支援を訴える相手の偏見を破折する勇気の行動であり、同時に自らの生命を浄化していくことでもあるからです。悪と闘わない限り、自分のなかの悪も浄化することができない――池田会長がそのような趣旨のことをしばしば語られるとおりです。

自分の背中を自分で見られないように、自分のなかの悪はなかなか自覚できないものです。眼前の悪と闘うことによって、初めて自分のなかの悪も自覚できる。だからこそ、支援活動を通じて政界の悪と闘うことは、生命のなかの悪を浄化することにつながるのです。

以上のように考えてみれば、選挙支援活動に功徳があることは、むしろ当然と言えるのではないでしょうか〉

少子高齢化や執行部の路線への反発などで会員・活動家の減少=組織力の減衰に苦慮する創価学会にとって、選挙支援活動に功徳があると「もっとはっきりと」言うべきとする佐藤氏の主張は、会員を選挙闘争に駆り立てる上で強力なロジックとなる。

はたしてこうした主張が、佐藤氏の発意なのか、それとも創価学会側の意向を受けてのことなのかは分からないが、佐藤氏を高く評価する原田会長のジュニアの教学部長就任により、佐藤ロジックが会内に広く敷衍されていく可能性は否定できない。

というのも故意か偶然かは分からないが、原田ジュニアの教学部長就任を報じる6月11日付『聖教新聞』は、まるでコラボレーションしたかのように、佐藤優氏のインタビュー記事を大々的に掲載していたからだ。しかもその紙面構成は、新教学部長就任の記事が、1面左下のわずか2段の小さな記事であるにもかかわらず、佐藤インタビューは1面トップで紙面の大半を占めており、さらに3面全面にまで及んでいる。

創価の信仰学を構築するという創学研究会で佐藤氏が先行的ロジックを提示、それを教学部がフォローし創価学会の新教義としてスタンダード化する。「日蓮世界宗創価学会」ではそんな連携作業が今後、恒常化することになるのかもしれない。

こうした創価学会と佐藤氏の関係について、宗教学者の島田裕巳氏は、14年に言論プラットフォーム「アゴラ」にアップした「なぜ佐藤優氏は創価学会の選挙活動にしか役立たない本を書いたか」という記事の中で次のように論評している。

〈注目されるのは、佐藤氏が、創価学会、公明党の今後のあり方について、提言を行っていることである。

佐藤氏は、現在の創価学会と公明党が過剰なほど政教分離を推し進めているととらえ、むしろ、公明党には宗教色を明確に打ち出すことを求めている。「公明党には、自分たちが日蓮仏法の流れを引く創価学会の価値観を基盤にした政党だと宣言する選択肢があるはずだ」というのだ。

これは、佐藤氏が一言もふれていない創価学会、公明党による「言論出版妨害事件」以降とってきた方針を180度転換させるものになる。

また、仏教学部を設けていない創価大学についても、それを「設置して専従の教学エリートを養成し、継続的な研究ができる態勢を整備することが急務になってくると私は見ている」と述べている。

佐藤氏は、創価学会員の選挙活動に役に立つ書物を書いた上で、創価学会、公明党に一定の影響力を行使しようとしているように見える。

その可能性は今のところ高くはないが、もし創価学会、公明党が佐藤氏の提言を受け入れたとしたら、佐藤氏の社会的な立場も大きく変わっていく可能性がある。

あるいは、佐藤氏の本当の目的はそこにあるのかもしれない〉

『人間革命』『新・人間革命』をはじめとする池田氏の著作物や、創価学会の公開情報のみを論拠とする佐藤氏の手法を島田氏は、「それぞれの宗教で主張されている教義を真実のものとしてとらえ、それを前提に議論を進めていく」という「神学の方法論」に基づいていると指摘。佐藤氏のロジックは「創価学会・公明党神学」だと指摘しているが、首肯できよう。また佐藤氏の創価学会に対する影響力の拡大の可能性に言及しているが、いまや佐藤氏は創価学会における「諸天善神」。原田ジュニアの教学部長就任は、「創価学会神学」が創価学会教学の主流となる可能性を含んでおり、佐藤氏の影響力は増しこそすれ、減る可能性はほとんどない。

 

82歳の会長が迎える任期切れが招く混沌

ところで、原田ジュニアの教学部長就任は、来年11月で任期切れとなる原田会長の後継問題も絡んで注目を集めている。というのも原田会長は任期満了時には82歳となり、続投するのか退任し新会長の誕生となるかが当面の焦点ともいえるからだ。

次期会長をめぐっては、従前、正木正明理事長(創価学園・創価大学卒)と谷川佳樹主任副会長(創価学園・東京大学卒)の二人が本命視され、マッチレースが続いていたが、15年に正木氏が、事実上、失脚。谷川氏の就任が有力視されたが、谷川氏の会長就任には、谷川氏が矢野絢也元公明党委員長との訴訟の過程で、裁判所から「脅迫行為」が認定されていることや、会内で女性スキャンダルの噂が取りざたされるなどしたため、反対ないしは疑問視する空気が根強くあった。

そうしたことも影響したのか、20年に谷川氏は学校法人・創価学園の理事長に就任する。創価学園は創価学会では「外郭」と位置づけられており、この人事は明らかに格下げを意味することから、谷川氏の創価学園理事長就任は、次期会長への待機ポストというよりも会長コースからの脱落との見方が強い。

その一方で、注目されているのが、谷川氏にかわって総東京長に就任し、国政選挙における政党・候補の支援の有無を審議する全国社会協議会の議長や、聖教新聞社代表理事を兼務する北条浩4代会長の女婿でもある萩本直樹主任副会長である。

次期会長をめぐる創価学会内部の動静と原田ジュニアの教学部長就任について、原田・谷川・萩本の3氏をよく知る東大同窓の元学会幹部は、次のように感想を述べる。

「谷川も萩本も東大卒で原田会長の後輩にあたるが、男子部長や青年部長を歴任したイケイケの谷川に対して、萩本は堅実な官僚タイプ。その意味では原田さんに似たタイプであり、原田さんとしては御しやすいだろう。正木理事長が失脚したことで、谷川が次期会長の有力候補として存在感を増していたが、過去の女性スキャンダルの疑惑に絡んで、反宗門の論客と言われた元青年部幹部の波田地克利を名誉棄損罪で刑事告訴した。結局、刑事告訴は不起訴だったにもかかわらず波田地とその関係者の多くは創価学会を除名されたため、谷川への反発を強めたことから、谷川の負の側面がクローズアップされる形となってしまい、谷川は厳しい立場に立たされることとなり、その代わりといってはなんだが急速にのしてきたのが萩本だ。

17年に創価学会は会憲を制定し、会長権限を大幅に強化した。卑俗な言い方をすれば金も人事も自由にできる絶大な権限を持つ会長ポストを原田さんが易々と譲り渡すとは考えにくい。その意味では、来年82歳になる原田さんだが、今年の参院選と来春の統一地方選を現状維持で乗り越えれば、当面、国政選挙はないため、そのまま続投する可能性は低くない。逆に選挙の無い無難な時期に交代しておこうとなった場合は、御しやすい萩本を新会長に据え、コントロールしようとするのではないか。今回、長男の星一郎を教学部長に据えたのは、萩本をショートリリーフに据え、その間に星一郎を主任副会長や理事長に昇格させた後、会長にという野心というか親心からの布石なのかもしれないが、絶大な会長権限を手に入れた萩本が、唯々諾々と原田さんの言うことを聞くかどうか。

まして池田名誉会長が世襲を否定したため池田氏の二人の子息はいずれも会長になれなかったにもかかわらず、弟子の立場の原田さんの息子が会長就任となれば、納得しない会員も多いはず。いずれにせよ波乱含みだね」

1972年生まれで今年50歳の原田ジュニアは、創価幼稚園の1期生で、その後創価小・創価中・創価高と進み東大に進学。卒業後は創価学会職員となり、女性問題で解任された弓谷照彦元男子部長が学生部長時代に書記長を務め、東京男子部長・同青年部長、牙城会委員長などを歴任した後に港区総区長に就任。教学面でも男子部教学部長から副教学部長を経て、今回、教学部長兼SGI教学部長に就いた。東京男子部長・同青年部長・牙城会委員長時代には、全国男子部長登用の可能性もあったと言われるが、壮年部に移行して若くして港区総区長に就任している。創価学会内にあっては順調な出世ということができ、当然、その背景には父親である原田会長の“ご威光”があったというのが衆目の見るところ。

ちなみに原田会長が第一庶務室長など創価学会の奥の院から、学生部長・青年部長へと表舞台に登場し、将来を嘱望されていた時期、ライバルには創共協定の根回し役を担った野崎勲男子部長がいた。「私が創価学会の後継者です」と豪語していた野崎氏は、池田氏の弟子の証である「新弟子証」の第1号を受けている。第2号が原田氏であり、両者のライバル関係は、野崎氏が病に倒れるまで続いたが(04年死去)、その野崎氏の子息は、創価学会には就職せず、現在、大手外食チェーンの某店舗の店長を務めている。関係者によれば野崎氏は子息に対して「創価学会の職員にはなるな」と語っていたという。池田後継と目されていた野崎・原田の両氏だが、その子息への対応は大きく異なっていたようだ。

本誌発行時にはすでに参院選の結果は出ている。その結果がどうあれ、与党化を世界宗教の条件とする「創価神学」に基づいて世界宗教化を図る創価学会にとって、政権与党から離れる選択肢はない。たとえ「平和・福祉」に逆行する形になっても、与党からは離れないだろう。ダンテは「神曲」において「天国篇」と「地獄篇」そして「煉獄篇」を書いたが、会員の輿望を裏切り続ける創価学会の未来図はどう書かれるのか。

おそらく「天国篇」でないことだけは確かだろう。

 

乙骨正生(おっこつ・まさお)フリージャーナリスト。1955年生まれ。創価中学・創価大学法学部卒。宗教・政治・社会分野などを取材、週刊誌・月刊誌を中心に執筆。著書に『怪死』(教育資料出版会)『公明党=創価学会の野望』『公明党=創価学会の真実』『司法に断罪された創価学会』(かもがわ出版)など。

 

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