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2022年8月号

8月号目次

 

閻魔帳

民主主義の破壊を招く「国葬」/段 勲

 

特集/安倍元首相銃撃事件と参院選─政治と宗教の深層を抉る

 

創価=公明の相対的価値の低下 問われる統一協会被害の根深さ/柿田睦夫

安倍晋三銃撃と統一教会を巡る報道から見える懸念/鈴木エイト

「618万票ショック」に見舞われた「公明党=創価学会」と「安倍狙撃事件」を繋ぐもの/古川利明

「政治と統一教会」問題で終わらせず「カルト問題」対策につなげるべき/藤倉善郎

創価学会&旧統一教会が支えてきた保守独裁政権の闇が露呈/乙骨正生

 

  • 連載

信濃町探偵団──創価学会最新動向

「公明党と創価学会」を考える(第34回)

「平成の政治改革」と公明党・創価学会(3)/平野貞夫

ナニワの虫眼鏡(第38回)

安倍元首相の死で変わる国会の勢力図 日本維新の躍進は本当か/吉富有治

ヨーロッパ・カルト事情(91)

安倍元首相射殺に考える、宗教・カルト・政治(1)/広岡裕児

執筆者紹介  バックナンバー一覧 編集後記

 

 

編集後記から

小誌の創刊は、2002年の3月1日。当時の日本の政治状況は、1999年に始まった自自公連立政権が、2000年の自由党の連立離脱と、自公保政権を構成した保守党が03年11月に自民党に吸収され、本格的な自公政権へと移行する過渡期にあたっており、政権内での公明党=創価学会の存在感と影響力が拡大していくことに対する危機感が、創刊動機となっています。

爾来20年にわたって小誌は、創価学会・公明党問題を中心に、旧統一教会と自民党の関係をはじめ、幸福の科学と幸福実現党、神社本庁を筆頭とする日本会議に蝟集する右派系の宗教団体の動静などについて、事実と真実を追究し、時には告発・弾劾する記事を掲載し続けてきました。

しかし政権と一体化した創価学会は居丈高になり、かつて言論出版妨害事件を引き起こした体質そのままに、自らへの批判的言論を駆逐するために名誉棄損の損害賠償の高額化を推進するなどしたため、メディアは萎縮。その結果、創価学会問題はもとより、霊感商法被害や合同結婚式で厳しい社会的非難を浴びた統一教会に関する報道も、メディアではほとんど見かけることがなくなりました。

特に「一強」などと言われるようになる安倍政権が発足してからは、創価学会・公明党の政教分離問題を糺す声は政界・マスコミ界から駆逐され、自民党と統一教会との関係についても、安倍首相をはじめとする自民党議員は、開き直ったかのように半ば公然と関係を強化。正体隠しの名称変更を容認するとともに、ついには安倍元首相が韓鶴子旧統一教会総裁を礼賛するビデオメッセージに登場するまでに深化したのでした。

そんな悪しき宗教と政治の癒着、もたれ合いにこんな形で光があたるとは…。安倍元首相暗殺事件は、20年にわたって宗教と政治・宗教と社会の諸問題を告発し続けてきた小誌の編集発行人としても、衝撃の事件でした。

殺人は許されることではありません。しかし、殺人事件を犯すまで山上徹也容疑者を追い込んだカルトの悪質さを、私たちは見逃すことができません。

不幸な事件を契機にカルトに光があたった今こそ、日本におけるカルト対策、なかんずく宗教と政治の悪しき癒着関係、そのど真ん中にいる創価学会・公明党問題に光をあて、厳しい監視と批判を続ける必要があると改めて痛感しています。(骨)

特集/安倍元首相銃撃事件と参院選─政治と宗教の深層を抉る

 

創価=公明の相対的価値の低下 問われる統一協会被害の根深さ

柿田睦夫

ジャーナリスト

 

自民票なしに存立し得ぬ事態

創価学会の「広宣流布のバロメーター」がついに底をついてしまった。

7月の参院選で公明党の比例区票が618万票にまで急降下してしまったのだ。昨年10月の衆院選は711万票だったから、わずか半年余りの間に100万票近く減らしたことになる。ほぼ全国の小選挙区で自民党候補が「比例は公明党」と唱える衆院選とは条件が違うとはいいながら、1992年参院選の641万票すら下回る。30年以上前にまで逆戻りしたのだから、ことは深刻なはずだ。

ところが当選者数は13人(比例6、選挙区7)と、創価学会・公明党が目論んでいた議席をきっちり確保している。

「広宣流布のバロメーター」は激減したけれど、自民党に回してもらった票を上積みすることで議席だけは確保したのだ。つまり創価学会の自力で獲得した議席ではない。

公明党が候補者を出した7選挙区のうち埼玉・神奈川・愛知・兵庫・福岡の5選挙区では、自民党は自らの候補を擁立したうえで公明党候補をも推薦する。つまり余分の票を回してやるという協定を結んでいる。3回前の16年参院選から導入した協定。創価学会執行部が公明党の頭越しに、自民党・首相官邸との間で結んだ協定である。

佐藤浩副会長を窓口とする学会執行部が官邸に頼み込み、菅義偉官房長官が安倍晋三首相の了解を取り付け、地元の自民党の猛反対を押し切ってこの協定をスタートさせたと伝えられている。

今回もこの5選挙区では、自民党はすべて比例区票よりも選挙区票を減らしている。つまり比例票の一部が選挙区では他党(大半が公明党)に流れている。逆に公明党はすべて比例区票よりも選挙区票が増えているのだ。

埼玉では自民党が比例96万8000票・選挙区72万7000票と24万票余りを減らし、公明党は比例37万5000票から選挙区47万6000票と10万票余り増やしている。同様に愛知は自民党が13万票減で公明党が9万6000票の増、福岡では自民党8万4000票減で公明党が5万8000票の増と、この3選挙区では公明党の増加票を自民党の減少票が上回っている。つまり自民党からの流入票がなければ公明党は落選していた可能性が極めて高くなるのだ。公明党はいま、自民党の支えなしには存立しえないという現実に直面したのである。

5選挙区で票を回してもらう代償が定数1の選挙区で公明票=創価学会組織票を自民党に提供することだが、今回これに異変が起きた。当選した自民党と次点との票差が同じ選挙区の公明党比例票を下回った選挙区、つまり公明票がなければ当選できなかった選挙区が岩手・新潟・福井の3選挙区にとどまったことである。19年参院選では9選挙区もあった。

最大の要因は今回、野党共闘が成立しなかったことにある。野党乱立による票の分散があった。政策協定に基づく野党共闘にはつきものの無党派票の支持を獲得するというプラスα効果を今回は発揮できなかった。だから自民党は公明票に頼らずとも当選圏内に入ることができた。

野党共闘の不発は自公間の力関係にも変化をもたらした。自民党が公明票に救われた選挙区が9から3に減ったということは、自民党にとって公明党=創価学会の存在価値がそれだけ低下したことを意味する。維新の増進や国民民主の取り込みに成功したことが、さらに上塗りの効果を生む。

池田大作氏不在の創価学会は、ひたすら政権依存の道を歩み続けてきた。それで組織維持を図ってきた。対自民党の力関係の変化を創価学会=公明党はどう打開するのか。「21世紀宗教と政治研究会」は「自民党への依存度を高めるようになるだろう」と分析している(『仏教タイムス』7月21日付)。やはり、当面は政権従属の深化しか方途はないのかもしれない。

 

母親の人格まで壊された無念

ここでテーマを変更させていただきたい。統一協会(現・家庭連合)問題に起因する安倍晋三元首相銃殺事件である。犯行自体は絶対に許されるものではない。しかし同時に、そこまで追い込まれていった容疑者の怒りと無念は痛いほどわかるのだ。

『しんぶん赤旗』記者だった筆者は1980年代半ばから2012年の退職まで統一協会問題を取材した。80年代半ばは霊感商法への社会的関心が高まりつつある頃だった。相手の不安や恐怖をあおり「これを買わないと救われない」と売りつける悪質な詐欺商法。それを宗教的信念のもとで組織的に展開するのが統一協会だった。

統一協会の主要教義は「祝福」と「万物復帰」である。祝福は人類救済の教義でそれを象徴化したのが集団結婚。一方の万物復帰は正体を隠した詐欺的伝道や霊感商法を合理化する教えである。

この世の人も財もすべて神のものであり、サタン(一般社会)のもとにある宝を本来の所有者である神=文鮮明に「復帰」させるのだから、それは善であり救いなのだ。ちなみに霊感商法のような集金活動をしているのは日本の統一協会だけ。文一族の生活遊興費を含む統一協会の活動資金のほぼすべてが、日本で稼ぎだしたものである。

当時はツボや多宝塔などの販売が主流だった。統一協会は壮婦の食口(信者)を中心に「霊石愛好会」を結成。「我々はツボを買って救われた」「信教の自由だ」と騒ぎたてた。NHKが朝のニュースで霊感商法を取りあげると、一日に4000本の抗議電話が集中して業務マヒになる部署も出た(『放送レポート』87年7月号)。それとの因果関係は不明だが、大半のメディアはまもなくこの問題で鳴りをひそめた。

『赤旗』を退職するまで、筆者のもとにも絶えることなく統一協会の被害相談が寄せられた。2000年代に入った頃から相談の内容に変化があらわれた。

それまでは「うちの息子が、娘が」という相談が主流だった。そのうち「妻が」という相談が目立つようになった。「母が」という相談がそれを追いかける。ある大手薬品会社社員の相談は「妻の様子がおかしくなった。調べてみると2000万円の定期預金がなくなっていた」だった。

『赤旗』退職時には「妻が、母が」の相談が完全に主流になっていた。詐欺的伝道と霊感商法のターゲットを自由に金を調達できる働く女性や財産のある主婦らにシフトしたのだ。

理由がある。当時、日本の統一協会の稼ぎが、韓国=文鮮明の送金指示に追いつかなくなっていた(韓国からの指示は数十から数百億円規模だと聞いたことがある)。韓国誌『時事ジャーナル』が「資金源である日本統一協会の動きが尋常ではない」「韓国統一協会の赤字を埋めるために『底無し瓶に水を注ぐ』ように流れ込んでいた日本統一協会の資金の流れが断絶した」(91年11月28日号)と伝えたことがあるが、逼迫の度は増す一方だったのだ。

ターゲットの変化はそんな事情のもとで起こったのだろう。「HG」という統一協会の内部用語がある。「早く現金」というのだからふざけている。

現金を貢ぎ尽くすと、今度は銀行をはしごして「車を買うから」などの口実でローンを組ませてそれを出させる。「よかったね、天国に近づいたよ」と励まし、「霊界の先祖を救わなければ」と更に献金をあおり、資産をしぼりつくすという例を、筆者は何度も聞いた。一冊3000万円で買わせる「聖本」が登場したのもこの頃である。

容疑者の母親もまさにその一例である。1億円にものぼる献金で、ついに破産に追い込まれた。母親は最後まで「救い」だと信じて貢ぎ続けたのだ。財産を奪われただけでなく母親の人格をここまで破壊されたことへの怒り、悔しさもあっただろう。

もし彼が、霊感商法対策弁護士連絡会や被害者家族の会などに出会っていれば、問題の社会性に気付くことができ、怒りの矛先が銃撃のような犯罪には向かわなかっただろうと思う。それが残念だ。

 

柿田睦夫(かきた・むつお)フリージャーナリスト。1944年生まれ。業界紙記者などを経て1979年から「しんぶん赤旗」社会部記者。退職後「現代こころ模様」シリーズなどで「宗教と社会」の関わりを取材。葬儀や戦後遺族行政に関わるレポートも多い。『霊・超能力と自己啓発─手さぐりする青年たち』(新日本新書、共著)『統一協会─集団結婚の裏側』(かもがわ出版)『現代葬儀考─お葬式とお墓はだれのため?』(新日本出版社)『宗教のないお葬式』(文理閣、共著)『これからの「お墓」選び』(新日本出版社)『自己啓発セミナー─「こころの商品化」の最前線』(新日本新書)『現代こころ模様─エホバの証人、ヤマギシ会に見る』(新日本新書)、新刊に『創価学会の“変貌”』(新日本出版社)など著書多数。

 

信濃町探偵団──創価学会最新動向

  • 安倍元首相暗殺―弔意表明

・7月9日付『聖教新聞』「安倍元首相撃たれ死去 民主主義破壊の許せぬ暴挙」

「8日午前11時半ごろ、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で、参院選の応援演説中だった安倍晋三元首相(67)が銃撃された。安倍氏は首と胸付近から血を流し、心肺停止の状態で搬送されたが、午後5時3分に死亡した。(中略)県警によると、男は奈良市大宮町の職業不詳、山上徹也容疑者(41)。『安部元首相の政治信条への恨みでやったわけではない』と話しているという。(中略)なお、訃報に接し、原田会長が哀悼の意を表した」

・7月14日付『聖教新聞』「座談会 広布の翼を天高く」

「原田(会長)選挙戦終盤の8日には、演説中の安倍元首相が凶弾に倒れるという卑劣極まりない事件が起こりました。改めて、心からお悔やみを申し上げます。民主主義を脅かすこのような暴挙を、断じて許すことはできません」

 

※安倍晋三元首相の暗殺事件を、創価学会の機関紙『聖教新聞』も1面左肩を使って大々的に報道。これを「民主主義破壊の許せぬ暴挙」と非難するとともに、「原田会長が哀悼の意を表した」ことを伝えている。

その後、事件の背景には、霊感商法や合同結婚式などの反社会的行為を繰り返してきた旧統一教会に、山上容疑者の母親が高額献金を繰り返し、家庭が崩壊したことに対する山上容疑者の強い憎しみがあることが判明。安倍元首相が韓鶴子旧統一教会総裁を礼賛するビデオメッセージ送っていたことが、事件の引き金になったことなどが明らかになり、安倍元首相や自民党と旧統一教会との関係、そして政治と宗教の悪しき癒着が大きくクローズアップされることとなった。

しかし創価学会は、安倍元首相の葬儀が増上寺で行われたことや、閣議が国葬を決めたことは『聖教新聞』で報じたものの、事件の背景に旧統一教会の高額献金があったこと、また政治と宗教の関係が問題になっていることには、いっさい触れない。原田会長も座談会記事で「民主主義を脅かすこのような暴挙を、断じて許すことはできません」と発言していたものの、事件は、「民主主義を脅かす暴挙」ではなく、「カルトへの怒りの暴発」だったことが判明するや、火の粉がふりかかることを恐れてか、ひたすら沈黙を守っている。

ちなみに創価学会を組織母体とする公明党の山口那津男代表は、7月19日、記者団から政治と宗教の関りについて問われた際、「事件としての捜査が進展中なのでコメントは控えたいと思います。今後状況をしっかり見極めたいと思っております」と逃げ、見解を示さなかったことから、ネット上では《控えちゃダメでしょう。あなた、政治と宗教を語るべき1丁目一番地なんだから》《「カルト宗教は良くない」という日本の政治家であれば当然言うべき言葉が出てこない公明党の山口代表》など、批判の声が渦巻いている。

 

  • 618万票にもかかわらず異体同心の大勝利と強調

・7月12日付『聖教新聞』「7・12『炎の東京大会』65周年 総東京総区長会 原田会長が出席」

「7・12『炎の東京大会』65周年を記念する総東京総区長会が11日、東京・新宿区の金舞会館で開かれた。(中略)萩本総東京長が、『本陣』の使命に燃えてさらなる連続勝利の挑戦をと訴えた。原田会長は、立正安国へ走り抜いた全同志の『異体同心』の大勝利をたたえ、心から感謝。聡明に、健康第一で、世界の平和・安穏のため、いや増して前進しようとのべた」

・7月14日付『聖教新聞』「座談会 広布の翼を天高く」「全同志の異体同心の奮闘に感謝」

「志賀(青年部長)10日に投開票された参院選で私たちが支援した公明党は、大激戦だった兵庫、神奈川、愛知、埼玉、福岡、そして大阪、東京の7選挙区で完勝。比例区の6議席と合わせて13議席を獲得し、参院として第3党を維持しました。

原田(会長)ひとえに、記録的な猛暑や大雨に見舞われる中、同志の皆さまの誠実と信念の行動があったればこそです。まさに『異体同心の団結』の勝利です。本当にありがとうございます。心から感謝申し上げます」

 

※参議院選挙の結果を、創価学会が「異体同心の団結の勝利」と強調している。だが議席数こそ改選比1議席減に踏みとどまったものの、比例区・選挙区ともに獲得票を大きく減らしている。

こうした公明党=創価学会の敗因を、メディアは、「支持層の高齢化」(毎日)が影響していると分析しているが、少子高齢化の大波に加え、池田大作名誉会長の不在と執行部による宗教的・政治的決定に多くの学会員が不信や疑問を抱き、組織から離れ始めていことが、集票力の低下に直結していることは明白。

7月27日付『日本経済新聞』は、「公明比例票、都市・若者減る」「参院選618万票、現制度で最少」との記事で、「出口調査や地域別の得票状況を分析すると都市部や若い世代ほど得票率の低下が顕著な状況が浮かぶ」と指摘。「若年層ほど公明党を選ぶ割合は低い。60歳以上は10%ほどある一方で、30歳未満は6%台に下がる。30歳未満ではれいわ新選組を下回り全政党で6番目だった」と報じている。93歳の名誉会長という御輿(みこし)を80歳の会長と理事長が担ぐ創価学会。未来は暗い。

 

  • 池田緊急提言

・7月26日付『聖教新聞』「核兵器を巡る危機の克服を」「8月にニューヨークの国連本部で開幕 NPT(核兵器不拡散条約)再検討会議に寄せて 池田SGI会長が緊急提言」

※NPT検討会議に向けて、突然、池田名誉会長が「核兵器を巡る危機の克服を」と題する緊急提言を『聖教新聞』に発表した。安倍元首相暗殺事件を契機に政治と宗教の闇に厳しい視線が注がれる中での突然の提言。その狙いは……。詳しくは次号で。

 

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