特集深刻化する宗教と政治の混迷と混乱

 

選挙闘争の切り札は「陰徳陽報の大功徳」──勢力後退をごまかす姑息な選挙戦術

乙骨正生

ジャーナリスト

 

 

選挙結果に欣喜雀躍する創価学会

「立正安国の大連帯の構築」「創価学会の永遠性確立のための闘争」「池田大作先生の総仕上げの闘争」──創価学会が今夏の東京都議会議員選挙で、全国の会員を選挙闘争に駆り立てるために用いたフレーズである。

 東京都民が住民自治を実現するための選挙を、宗教団体の保身と延命に利用し、都民以外の会員を選挙闘争に駆り立てることは、地方自治と民主主義への冒瀆だが、馬耳東風の創価学会はそうした批判を一顧だにせず、冒頭紹介の宗教的フレーズをくり返し、なりふり構わぬ熾烈な選挙闘争を展開した。

 その結果、公明党は候補者23人が全員当選。また公明党と連携した都民ファーストの会が躍進する一方で、公明党が縁切りした自民党が惨敗したことは、選挙における創価学会の存在感を際立たせたことから、いま創価学会は都議選の結果に欣喜雀躍している。

 その一例として、投開票から6日後の7月8日開催の本部幹部会における原田稔会長発言を紹介しよう。ここで原田氏は、都議選の結果を「信心の凱歌」と形容。創価学会の宗教的勝利である旨、強調しつつ、全国の会員の献身的支援に次のように感謝の意を表した。

「東京都議選の大勝利、大変におめでとうございます。新党の突風が吹き荒れた今回の都議選で、公明党は、初挑戦や定数減の選挙区を抱え、候補の世代交代も重なり、極めて厳しい戦いを強いられました。

 しかも投票率が大幅に上昇する中、公明党候補は総得票数で前回を10万票近く上回り、実に7回連続となる、見事な全員当選の完勝を果たすことができました。これもひとえに、全国の同志による献身的な取り組みのたまものであり、『異体同心の団結』の結晶であります。そして何より『不二の師弟の凱歌』であり、『一人一人の信心の凱歌』であります。心から御礼申し上げます。本当にありがとうございました」(7月14日付「聖教新聞」)

 その上で原田氏は、選挙結果により公明党の存在感が増すと強調。創価学会が政治的にも勝利したとアピールしている。

「都議会第2党を維持した公明党を、新聞各紙も『存在感が増すのは間違いない』などと論評。中央大学の佐々木信夫教授が『公明党は、都議会で中軸政党の役割を期待されることになる。つまり、単なるキャスティングボート(政策の決定権)ではなく、責任政党として真ん中に座る主軸の役割だ』と指摘する通り、公明党の役割は、一段と重要性を増しております。

 今回の勝利で、東京のみならず、日本の政治を支え、社会の安定を守り抜いているのは公明党であると、日本社会に広く証明することになりました」(同)

 たしかに今回の都議選において、公明党が選挙協力を結んだ小池百合子都知事率いる都民ファーストの会は、55議席(追加公認6)を獲得したものの、定数127の過半数64議席に届かなかったことから、公明党が都議会のキャスティングボートを握るのみならず、知事与党として都政に多大な影響力を持つこととなった。

 また自民党が57議席から23議席(選挙後1人が離脱し22議席に)へと歴史的惨敗を喫し、第3党へと転落したことも創価学会の政治的影響力と存在感を高めるものとなった。というのも、今年3月、安倍晋三首相は、都議会公明党が1979(昭和54)年以来、約40年にわたって連携し、都政・都議会を壟断してきた都議会自民党と手を切り、都民に人気がある小池知事にすり寄ったことを受けて、「公明党抜きの単独で勝利するいい機会だ」と発言。二階俊博自民党幹事長も「自民党の底力を見せ、今までにない選挙をやる。公明党がなくても勝ち抜く」と豪語していたにもかかわらず惨敗したからだ。

 これによって自民党は、創価学会の支援なくしては選挙に勝利することが難しいという政治的現実が再確認されただけに、今後、国政選挙をはじめとする各種選挙での自民党の創価学会依存度は、高まりこそすれ弱まることはないだろう。実際、安倍首相は8月3日の内閣改造を前に公明党の閣僚ポストを一つ増やすことを打診したと報じられている。

「週刊文春」7月20日号には、「創価学会中枢幹部が都議選大惨敗に『ざまあみろ』」との見出しで、創価学会の中枢幹部が都議選での自民党の惨敗を喜んでいるとの記事が載ったが、安倍一強体制下で“生命維持装置”である創価学会のありがたみに鈍感になっていた自民党に、あらためて“生命維持装置”の重要性を再確認させることができたという意味でも、今回の選挙結果は、創価学会にとって「大勝利」ということなのだろう。

 

「全員当選・完勝」の裏にある退潮の実態

 もっとも都議選における公明党の得票数を仔細に分析すると、政治的地歩を固めることはできたのかもしれないが、結果は原田会長が「公明党候補は総得票数で前回を10万票近く上回り、実に7回連続となる、見事な全員当選の完勝」と大言するほどのものではなく、後退・低下する組織力・活動力を、全国動員に象徴される熾烈な選挙闘争や、都議会自民党と手を切って、小池都知事にすり寄りイメージアップを図るなどの狡猾な選挙戦術によって、ようやく糊塗している実態が浮き彫りとなる。

 そもそも都議会における公明党の最大獲得議席数は1985(昭和60)年選挙の29議席であり、その後、262524議席と1議席ずつ減らし、2001(平成13)年選挙から今回に至る5回の選挙は、いずれも23議席の獲得にとどまっている。「完勝」などと威勢はいいが、実は公明党は29議席から後退を続けるばかりで、8回の選挙、実に32年にもわたって都議会では現有議席を1議席も増やすことができないのである。

 しかも今回、原田会長は前回比で「10万票近く」得票を伸ばしたと自画自賛しているが、周知のように今回の選挙は前回と異なり18歳選挙権が実施されている。公明党が候補を擁立した選挙区内での18歳・19歳の創価学会青年部員数は分からないが、前回比2513票増やした八王子選挙区を例にとれば、学生総数7447人(17年5月現在)を擁する創価大学の1年生だけで1861人となる。もちろんすべての学生が八王子市に居住しているわけではないが、仮に半数が居住していると想定すると得票増の37パーセントにあたる930票のプラスとなる。18歳・19歳の青年部員の得票数は全選挙区で一定程度の割合にのぼるであろうことは想像に難くない。

 前回まで候補者を二人擁立していたが、今回は一人にしぼった世田谷選挙区や、世田谷選挙区の現職が移動して立候補した北多摩3区を除く19選挙区における今回と前回2013(平成25)年選挙の得票数を比較すると、前回比マイナスだった選挙区は創価学会本部のある新宿選挙区と町田選挙区のみで、残り17選挙区はプラスとなっている。だが、前々回09(平成21)年選挙と比較すると、プラスは7選挙区でマイナスは13選挙区となる。さらに3回前の05(平成17)年選挙と比較するとプラスなのは北選挙区のみで、他の18選挙区は軒並みマイナスとなる。

 このうち創価学会本部のある新宿選挙区は、今回も前回比47票のマイナスだったが、前々回比では1676票、3回前との比較では3271票のマイナスとなっている。前回比で2513票のプラスだった八王子選挙区も、前々回比では3076票のマイナス、3回前比では5610票の大幅減。同様に町田選挙区では9823票のマイナス、練馬選挙区でも9199票のマイナスで、池田氏の出身地である大田選挙区は7642票減、墨田・板橋・江戸川の各選挙区でも軒並み5000票以上のマイナスとなっており、比較できない世田谷選挙区と北多摩3区をのぞく19選挙区の比較で合計67406票のマイナスとなっている。同様に前々回比では23531票のマイナス。前回比では約10万票のプラスかもしれないが、18歳選挙権があってなお、前々回、3回前の得票数には遠く及ばないのである。

 

12年前の古テープを放映した本部幹部会

 勢力の後退を受けて、いま創価学会が会員を選挙闘争に駆り立てるための切り札としているのが、選挙闘争に挺身した会員には、「陰徳陽報」の「大功徳」があるという“空手形”である。

 投開票から一夜明けた7月3日付「聖教新聞」掲載のコラム「今週のことば」。池田名誉会長のメッセージとされる同コラムにはこんな文言が並んでいた。

「ああ感激の同志、万歳!民衆の団結の大勝利だ。『陰徳陽報』は絶大なり。いよいよの信頼と福徳でみなが凱歌の人生を!」

 ここにある「陰徳陽報」とは、漢籍の淮南子「人間訓」にある「陰徳有る者は、必ず陽報有り。陰行有る者は、必ず昭名有り(人知れず徳を積む者には必ず誰の目にも明らかなよい報いがあり、隠れて善行をしている者には必ずはっきりとした名誉があるものだ)」(Web故事ことわざ辞典)に基づく故事成語で、創価学会が本仏と仰ぐ日蓮聖人が在家信徒への書状で引用していることから、学会員の間では「創価学会の信仰・活動を実践すれば、必ず功徳・利益がある」という意味合いでよく知られている言葉である。

 この池田メッセージの意味を解説していたのが7月6日付「聖教新聞」掲載の首脳幹部らによる座談会記事。「全国の『感激の同志』の奮闘に感謝──広布の戦いに陰徳陽報の大功徳」との見出しのついた記事中で永石婦人部長は、池田氏が「広宣流布のため、立正安国のため、感激の同志と、金の汗を流して積み上げた『心の宝』は無量無辺です。わが身をいとわず、奔走してくれた、誉れの創価家族の健康長寿、そして陰徳陽報の大功徳を、私は祈りに祈っていきます」と語ったと紹介している。選挙闘争に挺身した会員には、「永遠の師匠」(会則)である池田氏の「陰徳陽報」の「大功徳」の保障があるということなのだろう。

 都議選の勝利集会という意味合いもあった7月8日の本部幹部会で、創価学会は12年前の7月度本部幹部会での池田スピーチを放映した。12年前の7月にも都議選が行われており、この時も都議選の勝利集会の意味合いをもっていた。そのスピーチで池田氏は、選挙闘争に尽力した会員をこう激励している。

「晴れ晴れと、完全勝利、おめでとう!全国の皆さん、本当にありがとう!すべて、勇気ある同志の勝利である。婦人部の皆さん、家庭を守りながらの活動、本当にご苦労さま!芸術部の皆さんも、ありがとう!青年部も、よく頑張った!どうか、上手に体を休め、英気を養っていただきたい。そして愉快に、爽快に、ともどもに新たな前進を開始したい」(7月19日付「聖教新聞」)

 今回の本部幹部会で12年前のスピーチを放映したのは、池田氏が選挙闘争に挺身した会員を激励していると“錯覚”させるための印象操作にほかならない。姑息なごまかしにほかならないが、古テープを放映した事実は、今日ただいまの池田氏が、生身でのスピーチどころか肉声映像すら出せないことを意味している。

 都議選の結果、こうした姑息な手段で会員を選挙闘争に駆り立てている創価学会の政治的影響力や存在感が増したとすれば不幸なことである。日本の議会制民主主義の危機はいまだ深いと言わざるを得ない。

 

乙骨正生(おっこつ・まさお)フリージャーナリスト。1955年生まれ。創価中学・創価大学法学部卒。宗教・政治・社会分野などを取材、週刊誌・月刊誌を中心に執筆。著書に『怪死』(教育資料出版会)『公明党=創価学会の野望』『公明党=創価学会の真実』『司法に断罪された創価学会』(かもがわ出版)など。

 

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